映画『おくりびと』
「生と死」を取り扱ってきた映画は数多くあれど、これほど深遠且つ優美な感動を運んでくれる作品は無かった。忘れかけていたもの、日本情緒溢れる静かで繊細な感動がスクリーンからにじみ出てくる。名作といわれるのも納得の作品。
オープニングからその納棺師、小林大悟(本木雅弘)の姿がクローズアップされる。隣にいるのは社長の佐々木(山崎努)。映画は遺体に着付け・メイクを施す非常に洗練された納棺業者の姿を追うが、劇中度々ユーモアのある笑いの部分をも織り交ぜ、苦労・涙・幸せアリの人々の人生を綴っていく。
テーマは重いが、人の死に際でも巧みなユーモアのセンスを取り込んでいるので見ていて辛くなる場面はあまりない。 “旅立ち”のお手伝いをするNKエージェントの仕事ぶりはなんとも美しく、気品に満ちている。
父親が亡くなったときもこのような儀式は見たこと無かったし、納棺師という専門業者が存在していることすら知らなかった。通常は葬儀社内の担当者が行うことが多いらしいが、納棺を請け負う小さな会社で勤めているのが本作の主人公である大悟。楽団の解散によりチェロ奏者としての道を断念し、故郷の山形に妻の美香(広末涼子)を連れて帰郷、ひょんなことから納棺業者としての道を歩む彼、社長や事務の女性(余貴美子)とのやりとりも見所です。
納棺教則ビデオ(!?)の撮影現場で、大悟がいきなり死体の役割をさせられるシーンはひとつのハイライト。思わず吹き出して笑いそうになるシーンもあり、可笑しいです。
妻に隠していた仕事がばれてしまい、「けがらわしい!」と納棺の仕事に嫌悪感を抱く彼女は実家に帰ってしまいます。何がけがらわしいのか、一瞬そのセリフには信じられないものがありますが、チェロから離れることも、田舎に戻ることも、彼女はぐっと堪えていた。それが一生続けられる仕事?
幼馴染からまで仕事に対してバカにされる始末ですが、納棺師にやりがいを感じ始める大悟は着々と仕事をこなしていく。様々な人間模様が交差する中で、家族愛・夫婦愛が綴られる。父親との『再開』はおそらくこうなるであろうと読めてしまいましたが、石ころのシークエンスはグッときました。たとえセリフがなくとも、形だけで気持ちが伝わる、静かな本編の“妙”を見ました。
静かな、優しい気持ちになれる・・と同時に音楽が効果的に配置され、代役なしで挑んだモックンのチェロ演奏シーンや納棺技術など、感動的な余韻を残します。どこか宮崎アニメ風のBGMだな~と思っていたら、久石譲が音楽担当だった。古風であり、自然との調和を描く上でも、音楽がもたらす効果は大きい。
この映画は本木雅弘でなければ、山崎努でなければありえなかったのでは!?そう思えるほどに、納棺師として活躍する役者の美徳を見た気がします。
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◎米アカデミー賞外国語映画賞を受賞し、今もなおロングランヒットの上、上映拡大。DVDパッケージ表記には「世界中を温かな感動で包んだ2008年No.1の名作」となっている。
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おくりびと [DVD] 販売元:アミューズソフトエンタテインメント |
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コメント
ご免下さい お世話になります。
こちらは石川県生涯学習ボランティア団体の
「いしかわ生涯学習講師の会」ですが、私た
ちの生涯学習活動で講座、講演等の場所で
映画「おくりびと」を上映したいので著作者
の許可を頂きたくお願い申し上げるしだいです。
石川県生涯学習ボランティア
「いしかわ生涯学習講師の会」代表 若狭 武
投稿: 若狭 武 | 2009年3月27日 (金) 19時38分
若狭 武様、
ご訪問いただきありがとうございます。
私のブログはレビュー・感想から映画ファンが共有する場でありますが、直接上映会を施すものではございません。
各映画センターにお問い合わせください。
投稿: たまさん(主) | 2009年3月28日 (土) 11時59分